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幻想列車の旅。 ~『赤い月、廃駅の上に』~

幻想列車の旅。 ~『赤い月、廃駅の上に』~_b0137602_17481471.jpg赤い月、廃駅の上に 有栖川有栖
単行本: 304ページ (幽BOOKS)
出版社: メディアファクトリー (2009/2/4)
ISBN : 978-4840126540


雑誌「幽」に掲載されたものを中心に編まれた、極上の幻想短編集。


有栖川有栖といえば本格ミステリ作家。
と同時に、鉄道ファンという横顔も持っているそうで。(ファンどころではないらしいですが)
その2つが融合するとどうなるか……帯にあったように新境地なのは間違いないでしょう。
いつもの(?)密室やら殺人やらは置いといて、
旅情溢れる美しい文章と、日常から少しだけずれた異界への旅に浸れること間違いなし。

収録作の中で、個人的に特に気に入ったのは、
熱帯を旅するバックパッカーの、ふとした思いつきが後戻りできぬことになる「密林の奥へ」、
女優と結婚した普通の男のその後を、彼の密かな愉しみを通して描かれる「途中下車」、
SLに乗った男が、乗り合わせた美しい女性と共に味わった怪異「貴婦人にハンカチを」、
そして何といっても表題作「赤い月、廃駅の上に」。怖さではこれが一番。


全編通してテーマはもちろん「テツ」なので、
これだけでなく本気で鉄っちゃん(テツヲタ)とか出てきますけど(笑)、
鉄道に絡んだ百物語、なんてぞくりとしますよね。(その名も「テツの百物語」というのが!)
列車にまつわるだけではなく、洋上や冥土への旅(!)なんていうのもあって飽きません。


どれも、「怖い怪談」ではなくどこまでも「幻想綺譚」。
ラストでぞくりとさせられるのはもちろん、切なさにじんとくる話もあったりして、
読後はお腹一杯、上質な満足感に浸れる本だと思います。
装丁も秀逸。ざらりとした紙の質感も、まるで時刻表を手にしているかのようで面白いです。
ページ数の割りに意外な軽さも手伝って、きっとするする読めてしまうはず。
生と死の境界にするりと彷徨いこんでしまったような、不思議な旅をぜひ。

余談ですが、夜中に家で一気に読んでしまったのが非常に悔やまれます。
やはり電車に揺られながら読むんだったなあと。

インターネット広告の「トランスメディア」提供スキンアイコン by r_calliworks | 2009-06-17 19:03 |

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